捨てられた建築デザイナーは秘密を抱えた天才建築家に愛される
「ねぇ、春馬。あの男、知っている?」
「いや、知らない」
 二人がタクシーに乗り込む姿を見ながら美香は男の正体に悩んだ。
 どこかで見たことがある気がするけれど思い出せない。
 あんないい男、一度でも会ったのなら絶対に覚えているはずなのに。

 あんな芋娘に新しい男なんてもったいないわ。
 春馬は見た目はカッコいいけれど、ワイルドさが足りないというか物足りないのだ。
 それに引き換え、あの男は完璧。
 理由も聞かずに、自分の上着をかけて強引に連れて行くなんて。
 あんなふうに守られるなんて最高だわ。

 あの男に才能はあるだろうか?
 あの芋娘と一緒にこの辺りを見ていたということは彼も建築関係の可能性が高い。
 春馬と同じくらい才能があるんだったら、いえ、春馬よりも多少劣っていても、あの見た目と強引さなら構わない。

「ねぇ、春馬。今日はもう帰りましょう? 邪魔も入ったし」
「あ、あぁ」
 早くあの男の正体をパパに調べてもらわなきゃ。
 都内の建築事務所を調べればきっと見つかるはず。
 会社の車のエンジンをかけ発進させる春馬の横で、美香は父親にメッセージを送りながらニヤリと笑った。

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