捨てられた建築デザイナーは秘密を抱えた天才建築家に愛される
 菜々美にも凛にも連絡ができないまま、あっという間に事情を聞かれる日になってしまった。
 指定された場所に行った由紀は、春馬と美香の姿に胸がギュッと押しつぶされそうになる。

 ……また私のデザインを盗んで、社長令嬢と一緒の姿を見せられて。
 デザインを盗まれて悔しいという気持ちと、許せないという気持ちがこみ上げてくる。
 小声で律に「大丈夫だ」と言われた由紀は「はい」と頷いた。

「本日はお集まりいただきありがとうございます。手紙で連絡した通り、」
 コンペ主催者の説明のあと、それぞれのデザインに込めた思いを聞きたいと伝えられる。

「では、タカナシアーバンデザイン社代表の宮崎春馬さんからお願いします」
「はい。この作品で大切にしたコンセプトは……」
 大手デザイン会社の完璧なプレゼンと実績のある春馬。
 コンペ主催者の質問にもスラスラと答え、まるで自分が考えたデザインのようだ。
 盛大な拍手とともにプレゼンが終わる。

「では、加藤建築設計事務所の小林由紀さん、お願いします」
「あら、聞くまでもないんじゃなくって? だって盗んだのはあっちでしょう?」
 時間の無駄よと笑う美香を無視し、由紀はデザイン画の前に立った。
 社外の人にプレゼンをするのは初めてだけれど、私のデザインの想いをちゃんと伝えたい。

「この駅の第一印象は表と裏で利用者が違うということでした」
 由紀は現地で感じたことを踏まえながら、デザインの理由を話した。
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