捨てられた建築デザイナーは秘密を抱えた天才建築家に愛される
「何度も現場へ行き、寝る間も惜しんで試行錯誤しながら描いたものを盗作しておいて、共同にしろだって? どうせおまえの手柄にする気だろう?」
「そ、そんなことは」
「仕事も住まいも全部奪っておきながら今更やり直すだと?」
「あんたには関係ないだろ!」
 律は眉間にシワを寄せながら春馬から手を離すと、グイッと由紀を引き寄せる。

「由紀は俺の女だ、おまえには渡さない。ドイツで建築家になれるように俺が育てていく」
 才能もあり努力も惜しまない由紀は、建築業界最先端のドイツでもやっていけると律は由紀を褒めた。
 褒められたことも嬉しいけれど、その前の「俺の女」という言葉に由紀の顔が真っ赤になる。

「由紀、おまえは騙されているんだ! リッカはドイツの建築家だろ? こんなところにいるはずないじゃないか」
 俺のところに戻れと手を広げた春馬に由紀は首を横に振った。
 
「私、律がリッカだって知らなかった」
「ほら、やっぱり騙されて、」
「私、リッカのデザインに憧れていて、すごく素敵だなと、ずっと女性だと思っていて」
 だから律がリッカだなんて考えたこともなかった。
 ヒントはたくさんあったはずなのに。

「私、律が好きなの。私を利用しようとする春馬と違って、支えてくれたり励ましてくれたり。まだまだ秘密が多そうだけれど、でも私は律の側にいたい」
「じゃあ、そいつと付き合ってもいいけれど、せめて共同作品に……」
 往生際が悪い春馬に、由紀は首を横に振る。

「もうおまえのことは告訴済だ。あとは法廷で」
「は? 告訴? 建築士の資格をはく奪されるじゃないか! 嘘だろ? 助けてくれ、由紀」
 最後まで縋りつこうとする春馬から遠ざけるように、律は由紀を会長の前へ。
 会場には絶望する春馬の声が響き渡った。
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