捨てられた建築デザイナーは秘密を抱えた天才建築家に愛される
 ちょうど掲示板があるあたりに集まった人々。
 その中心は春馬だ。

「すげな。おめでとさん」
「大変なのはこれからだぞ」
 先輩たちにバシバシ叩かれながら揶揄われている春馬は照れ笑いをしているように見えた。

「あ、由紀。おはよう。見て見て、春馬くんすごいよ」
 同期の菜々美に腕を引っ張られながら掲示板の前へ。
 
「コンペ……優秀賞!」
 オフィスビル社内コンペ優秀賞:宮崎春馬。
 作品名:空の彼方。
 掲示板に貼られた社内コンペの結果に由紀は目を見開いた。

「すごい……」
 これは以前、リビングで春馬が考えていた一級建築士しか挑戦できなかったオフィスビルのコンペだ。
 ベテランの先輩たちもおそらく挑戦した中で、春馬が優秀賞……!
 すごすぎる!

 おまけのように印刷されたコンペの作品は、小さすぎて細かいところがよくわからない。
 タイトルから想像できる通り、空を反射するようなガラスの建物なのだということはわかるけれど。

 もっとしっかり見たいな。
 だが、たくさんの人に囲まれた春馬に近づくことは出来ず、由紀は自分の席へ向かった。

「……あ、春馬からだ」
『先輩が飲みに行くぞって。ごめん、夕飯いらない』
『わかった〜』
 スマホに表示されたメッセージに返信すると、すぐにごめんのスタンプが送られてくる。
 二人でお祝いしたかったけれど、仕方ないよね。
 みんなお祝いしたいよね。
 由紀はマンションの近くの牛丼屋さんで夕飯を食べてから帰ることに決めた。

 その夜は春馬に会う前に眠ってしまった。
 翌朝はバタバタしながら出勤し、仕事中は春馬と話す機会がなく、由紀がコンペ作品を見せてもらえたのは夜。
 
「……え? これって」
 デザイン画のコピーを見せてもらった由紀は、見覚えのあるデザインに驚いた。
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