言いたいことは山ほどある
稲田さんたちのいる事務の前を通り過ぎ、サーツを出た。

「ご親切にありがとうございます。」

「いえ。
山本さん、甘いものお好きですか?」

「へ?あ、はい。」

急に何の話だろうと不思議に思っていると

「これ、もし良かったら。」

羽山さんが差し出したのは一つの飴だった。

「あっ、私この苺飴好きです!」

「良かった。どうぞ。」

「いいんですか?」

「はい。是非。」

受け取る手と羽山さんの手がわずかに触れた。

そして真剣な眼差しで見つめられる。


すると羽山さんはパッと上を向き言った。

「雨上がりましたね。」


「そう、ですね!良かったです。」

今の羽山さんは何だったのか。

それが嘘のように挨拶をし、その場を離れた。

頭の中にあの表情が焼き付く。
< 6 / 22 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop