言いたいことは山ほどある
今でも初めてサーツに行ったときのことは覚えている。

私は広告などをデザインする明デザインに転職した。

転職して少しすると先輩と一緒にサーツを担当することになった。

先輩についてサーツに行ったとき、案内してくれたのも稲田さんだった。

「では、ご案内しますね。」

と立ち上がった。その人は私を上から下まで見ると歩き出した。

今のは何だったんだろう?

疑問に思いながらもついて行く。

打ち合わせをする部屋に案内してもらうと稲田さんは振り返った。

「担当代わられるんですね。寂しくなります。」

「はい、私もです。しばらくは私も同行しますが、山本をよろしくお願いします。」

私は頭を下げる。

「よろしくお願いします。では。」

そう言って私の横を通り過ぎるとき、ボソッと言葉が落とされた。

「この子で大丈夫かな。」


え?

小さな声に顔を上げるが、稲田さんは見向きもせず去って行った。
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