ネカフェ難民してたら鬼上司に拾われました
川岸のマンションに居候し始めてから随分経つが、昔の交際相手のことを話すほどは打ち解けてはいない。どちらかと言うと、互いに意識しないよう平静を保って生活している。特に川岸の方は穂香のことを一従業員としか思っていないみたいだったし、穂香だって彼のマンションを追い出されても困るから、ただの居候に徹していた。今更、ネットカフェに戻るのは勘弁したい。
でも、会話は少なくても、一緒に住んでいれば何となく自然と分かることもある。例えばそう、彼を捨てて家を出ていった元婚約者が可愛い雑貨が好きで、料理が得意だということなど。
だから、穂香は弥生達の会話に首を傾げてしまう。少し前に別れたという元カノがどうしても斜め向かいの店のオーナーとは思えないのだ。
――山崎オーナーって、昨日も一階でお惣菜を買ってたよね……?
シフトが早番の時に一階の食品売り場で食材を買って帰ることがあるが、割と高頻度で『ルーチェ』のオーナーのことを見かける。いつも出来合いの総菜コーナーで難しい顔をしてパックを品定めしていて、ちらっと覗き見たカゴの中に加工前の食材が入っていたためしがない。だから、どう考えても彼女は料理は全くしない人だ。
勿論、弥生達と同じように川岸達の関係はとても気になるが、二人が元恋人というのは無いなと結論付ける。
「あ、ほら。噂をすれば――」
弥生が好奇心丸出しの声で、通路の先を顎で示す。詩織と一緒に首を伸ばして店先を覗いてみると、オーナー二人が並んでこちらへと向かってくるところだった。どちらも手に資料を持ちながら話し合っているところを見ると、今日は店長やオーナーが参加するテナント会議の日だったらしい。何か難しい顔で議論しているから、また面倒なイベントをモール側から提案されたのだろう。
「――自店イベントの翌週にまたイベントって、本当に勘弁して欲しいよね。ここって各テナントのこと、何も把握してないわっ」
「来年からは年間のイベント計画をもっと詳細に出して貰うよう、次の会議で提案するしかないな」
「日程が決まってない計画書なんて、何の意味も無いわよね……」
キレ気味に声を荒げて文句を言う山崎を、川岸が「まあまあ」と宥めている。その様子は確かに仲が良さそうで、二人はお互いに心を許し合っているという雰囲気だが、色恋とはまた別だ。性別を超えた古くからの友達という感じで、なぜこの二人が噂になったのかが不思議なくらいだ。
同じことを詩織も弥生も感じたらしく、「なーんだ」と少し詰まらなそうな表情で商品整理へと戻っていった。
でも、会話は少なくても、一緒に住んでいれば何となく自然と分かることもある。例えばそう、彼を捨てて家を出ていった元婚約者が可愛い雑貨が好きで、料理が得意だということなど。
だから、穂香は弥生達の会話に首を傾げてしまう。少し前に別れたという元カノがどうしても斜め向かいの店のオーナーとは思えないのだ。
――山崎オーナーって、昨日も一階でお惣菜を買ってたよね……?
シフトが早番の時に一階の食品売り場で食材を買って帰ることがあるが、割と高頻度で『ルーチェ』のオーナーのことを見かける。いつも出来合いの総菜コーナーで難しい顔をしてパックを品定めしていて、ちらっと覗き見たカゴの中に加工前の食材が入っていたためしがない。だから、どう考えても彼女は料理は全くしない人だ。
勿論、弥生達と同じように川岸達の関係はとても気になるが、二人が元恋人というのは無いなと結論付ける。
「あ、ほら。噂をすれば――」
弥生が好奇心丸出しの声で、通路の先を顎で示す。詩織と一緒に首を伸ばして店先を覗いてみると、オーナー二人が並んでこちらへと向かってくるところだった。どちらも手に資料を持ちながら話し合っているところを見ると、今日は店長やオーナーが参加するテナント会議の日だったらしい。何か難しい顔で議論しているから、また面倒なイベントをモール側から提案されたのだろう。
「――自店イベントの翌週にまたイベントって、本当に勘弁して欲しいよね。ここって各テナントのこと、何も把握してないわっ」
「来年からは年間のイベント計画をもっと詳細に出して貰うよう、次の会議で提案するしかないな」
「日程が決まってない計画書なんて、何の意味も無いわよね……」
キレ気味に声を荒げて文句を言う山崎を、川岸が「まあまあ」と宥めている。その様子は確かに仲が良さそうで、二人はお互いに心を許し合っているという雰囲気だが、色恋とはまた別だ。性別を超えた古くからの友達という感じで、なぜこの二人が噂になったのかが不思議なくらいだ。
同じことを詩織も弥生も感じたらしく、「なーんだ」と少し詰まらなそうな表情で商品整理へと戻っていった。