ネカフェ難民してたら鬼上司に拾われました
「はぁっ?!」
スピーカーから聞こえてくる『おかけになった電話番号は現在使われておりません』のガイダンスに、思わずスマホを床へと投げそうになる。小刻みに震え出した手で、クローゼットに唯一残っている荷物を確かめていく。
繁忙期を乗り越えたご褒美に買ったグッチも、初任給で買った生まれて初めてのヴィトンも、元彼から誕生日に貰ったプラダも、とにかく判りやすい金目の物はごっそりと消えていた。ブランドロゴが小さくて、詳しくなければぱっと見には判別が付かないような物が何点か残っているのは、そういうことに疎かった栄悟の仕業だと自信を持って断言できる。
彼が確実に転売できると思った物だけを持ち出したのだろう。
「ありえない……」
何一つ家具の無い寝室のフローリングに、穂香はぺたんとお尻からへたり込む。仕事から帰ったら、自宅が夜逃げした後みたいにもぬけの殻になっているのだ。しかもご丁寧に、換金できないと判断された穂香の荷物の一部だけを残して。
「それって盗難届出した方がいいんじゃない?」
「いや、全部が全部って訳じゃないし……一緒に住む時に二人で買い揃えた物もあるから」
「でも家具とか冷蔵庫って、元々から穂香が使ってたやつだよね? それを持って行くって変じゃない?」
そうなんだけどねぇと相槌を打ちながら、穂香はコンビニのイートインスペースでカレーパンを齧っていた。窓際のハイテーブルでカフェオレから立ち上る湯気を見つめつつ、学生時代からの腐れ縁とも言える新田花音に電話を掛け、ついさっき起こったことを聞いて貰っていた。あまりに突然のことで、誰かに話さないと状況を頭の中で整理できそうもない。
「そもそも私、栄悟の連絡先をスマホの番号以外、知らなかったことに驚いてる。共通の知り合いとかもいないし」
「はぁ? 付き合って結構経つよね?」
「うん、もうすぐ一年半。初めの頃の勤務先は聞いたことある気がするんだけど、その後も何回か転職してて、つい最近も起業した方が効率がいいとか言ってネットでいろいろ調べてたかな」
「……結局のところ、ヒモだった訳ね。いつも話を聞いてて、胡散臭そうだなとは思ってたけどさ」
「まぁ、そうだね。あの部屋見て、私も完全に目が覚めたよ。だからもう手切れ金代わりにくれてやるって感じ」
腹は立つけど事件にはしないときっぱりと言い切る。そんな穂香に、花音は呆れた溜め息をついている。
「で、これからまた何も無い部屋に帰るの?」
「ううん、返して貰ってない合鍵がどうなってるかも分からないし、あそこに帰るのは怖いよ。今日は駅前のビジホに泊まろうと思って」
穂香は椅子の隣に立て掛けているスーツケースへと視線を送る。入るだけの荷物を詰め込んだスーツケースが、結婚を夢見たこの一年半の恋愛の結末かと思うと情けなくなってくる。
スピーカーから聞こえてくる『おかけになった電話番号は現在使われておりません』のガイダンスに、思わずスマホを床へと投げそうになる。小刻みに震え出した手で、クローゼットに唯一残っている荷物を確かめていく。
繁忙期を乗り越えたご褒美に買ったグッチも、初任給で買った生まれて初めてのヴィトンも、元彼から誕生日に貰ったプラダも、とにかく判りやすい金目の物はごっそりと消えていた。ブランドロゴが小さくて、詳しくなければぱっと見には判別が付かないような物が何点か残っているのは、そういうことに疎かった栄悟の仕業だと自信を持って断言できる。
彼が確実に転売できると思った物だけを持ち出したのだろう。
「ありえない……」
何一つ家具の無い寝室のフローリングに、穂香はぺたんとお尻からへたり込む。仕事から帰ったら、自宅が夜逃げした後みたいにもぬけの殻になっているのだ。しかもご丁寧に、換金できないと判断された穂香の荷物の一部だけを残して。
「それって盗難届出した方がいいんじゃない?」
「いや、全部が全部って訳じゃないし……一緒に住む時に二人で買い揃えた物もあるから」
「でも家具とか冷蔵庫って、元々から穂香が使ってたやつだよね? それを持って行くって変じゃない?」
そうなんだけどねぇと相槌を打ちながら、穂香はコンビニのイートインスペースでカレーパンを齧っていた。窓際のハイテーブルでカフェオレから立ち上る湯気を見つめつつ、学生時代からの腐れ縁とも言える新田花音に電話を掛け、ついさっき起こったことを聞いて貰っていた。あまりに突然のことで、誰かに話さないと状況を頭の中で整理できそうもない。
「そもそも私、栄悟の連絡先をスマホの番号以外、知らなかったことに驚いてる。共通の知り合いとかもいないし」
「はぁ? 付き合って結構経つよね?」
「うん、もうすぐ一年半。初めの頃の勤務先は聞いたことある気がするんだけど、その後も何回か転職してて、つい最近も起業した方が効率がいいとか言ってネットでいろいろ調べてたかな」
「……結局のところ、ヒモだった訳ね。いつも話を聞いてて、胡散臭そうだなとは思ってたけどさ」
「まぁ、そうだね。あの部屋見て、私も完全に目が覚めたよ。だからもう手切れ金代わりにくれてやるって感じ」
腹は立つけど事件にはしないときっぱりと言い切る。そんな穂香に、花音は呆れた溜め息をついている。
「で、これからまた何も無い部屋に帰るの?」
「ううん、返して貰ってない合鍵がどうなってるかも分からないし、あそこに帰るのは怖いよ。今日は駅前のビジホに泊まろうと思って」
穂香は椅子の隣に立て掛けているスーツケースへと視線を送る。入るだけの荷物を詰め込んだスーツケースが、結婚を夢見たこの一年半の恋愛の結末かと思うと情けなくなってくる。