残酷な初恋

それから

僕は、高校卒業後、1回もクラス会や同窓会に参加していない。西村さんに会うのが怖いからである。

同じ夢を見るのは、僕の中で初恋が終わっていないからだと考えた。そんなある日、同窓会の案内が届いた。
初恋を終わらせるためには同窓会に参加するしかないと考え、夏に開催される中学校の同窓会に参加することを決心した。西村さんと2人で話がしたい。初恋を終わらせるために。

場所は、当時通っていた中学校の体育館で同窓会が開かれた。参加したのは恩師含め100名程度である。

意を決して、会場に入る。心臓がバクバクし始めた。
今日は、恩師も多く参加している、北村先生も来ていると聞いている。僕は、3年時の担任の先生、部活の顧問の先生に挨拶をし、北村先生の元に向かった。そして一目見てわかる、北村先生の元に中学2年の時のクラスメイトが集まっている。ほぼ全員集合だ。さすが最高のクラスだ。その光景により、さらに心臓がバクバクしだした。

大きな声で声をかけられた。
「熊谷、こっち。早く」
北村先生の懐かしい声が響く。
僕はすぐに椅子に座らせられた。あたかも、あらかじめそこに座れと言わんばかりに椅子が用意されていた。
僕の前には、西村さんが座っていた。高校卒業してからかなりの時間が経つのに、一目見て理解できた。ただ、その他の女性が誰なのかはわからない。
公開裁判の様子に思えてきた。僕が西村さんに高校時代に告白したことは、僕がこの場所に来るまでの間に既に話がされており周知となっていた。

これは気まずい。やばいぞ。

しかし、北村先生からびっくりする発言があった。
「志桜里の初恋はいつなの?」
「うーん、中学生のときかな。どうなんだろ、気になるくらいだったかな。」
誰かわからないが、周りの女性から。
「誰なの?」
「私によくちょっかいかけてきた男子。目の前に座っている。中学生の時に告白してほしかったな。」
僕は嬉しいという感情もあったが、恐怖の感情が勝っていた。タラレバが現実になっていたかもしれない、それに恐怖を感じていた。
震えているのか、感情をコントロールできないのか、僕の声は粗ぶっていた。
「ダメなんだ。ダメなんだよ。それは。」
僕は声を落ち着かせ、これまで誰にも語らなかった最大の事件を話すことにした。タラレバも含めて。
周りは、黙って聞いてくれた。北村先生も西村さんも。初めて聞く内容に、その場にいる全員が神妙な面持ちだった。
僕は西村さんに尋ねた。
「高校2年の2学期の終わり掛けだったと思う。この事件の時期は。もし事件以降に告白しても、手遅れだったよね。」
西村さんは、静かに頷いた。
「そうだよね。高校時代の西村さんはとっても綺麗だった。ほっとく方がバカだよ。」
少し間をおいて、僕は続けた。
「僕と西村さんは、運命だったんだよ。決して初恋が叶うことがない運命。」
そして、さらに続けた。
「今は、結婚して娘もいます。西村さんに高校最後に告白できたから、次の恋に進むことが出来ました。初恋を後悔することで、2回目の告白は言うべきタイミングできちんと思いを伝えることが出来ました。結果は同じだったけど。僕が告白したのは2回だけです。2戦2敗です。」
「あれ、今の奥さんは?」
「僕を好きだと言ってくれました。僕が大学院1年目の時に。」
まわりの驚き、僕は手に取るようにわかった。

僕は続けた。
「本当にいろいろあった。いっぱい後悔もした。でも、人生の中で正しい選択ができたと思う。あの時、告白できなかったことも、あの時、告白したことも。」
目じりの涙をぬぐいながら。
「西村さん、最後に一つだけ質問してよいかな?」
次の言葉は、今日この日のために、準備してきた質問だ。
「今、幸せですか?」
「はい、幸せです。」

これにて僕の初恋は終幕です。

おわり
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