イケメン御曹司とは席替えで隣になっても、これ以上何も起こらないはずだった。

No.20:和食ファミレス

 目的の和食ファミレスは、本当に歩いて2-3分の距離だった。
 ビルの1階に、その店は入っていた。
 店内は結構な賑わいで、順番を待っているお客さんが数組いる。
 宝生君は店員さんに名前を告げると、私たちは奥の方へ通された。
 
 そこには個室がいくつかあり、そのうちの一つに案内された。
 個室の手前でサンダルを脱いで、お座敷に上がる。
 テーブルの下は、掘りごたつのように足を下ろせるようになっていた。

「へぇー、なんかいいね。個室で落ち着いてる」

「まあファミリーやグループにはいいだろうな。あとカップルにも」

 まあカップルじゃあ、ないんだけどね。
 でも……。

「宝生君、さすがに女の子の扱い上手だね」

「……それ、褒めてんのか?」

「褒めてる褒めてる。ちゃんと歩くスピード合わせてくれるしさぁ。こういう雰囲気のいい所、連れてきてくれるし」

「だからここは宝生グループだから来たんだぞ」

「そっか。いや、だとしてもだよ」

 私は変に感心していた。

「月島は……その……デートとかしないのか?」

「は? どうやって? 相手もいないのに」

「そうなのか? よくわからんが、クラスでも人気ある方じゃないのか?」

「初耳だよ。全然そんなことないよ。それ柚葉と間違えてない?」

「柚葉ってよく月島と一緒にいる子か?」

「そうそう。私より背の高い」

「凹凸のある感じの?」

「どうせ私はありませんよっ!」

「いてっっ……だからオシボリとか投げるなよ」

「フンだ」

 なんでこのネタでイジってくるかな。
 心外にも程がある。

「あのよく一緒にいるヤツが、どっちかと付き合ってるのかと思ったぞ」

「えっと……ハリー君のこと?」

「杖とマントが似合いそうなヤツ」

「ああ、ハリー君ね。彼は柚葉と本当に仲がいいんだよね。付き合っちゃえばいいのにって思うくらい」

「そっちのほうか。月島じゃなくて」

「ないない。私は彼氏いない歴イコール年齢だからね」

「自慢できるこっちゃねーな」

「自慢してないし!」

 とりあえず早く注文しよう。
 2人でメニューを開いた。

「ここの推しは、釜飯だ。このセットが売れ筋」

「うん、釜飯美味しそうだね。それにしよう」

 メニューの写真を見ると、釜飯にお味噌汁に小鉢、茶碗蒸しと小さなデザートがついている。

「じゃあ……この鶏五目釜飯と海鮮釜飯、1つずつにしよう」

「うん」

 テーブルの上のボタンを押して店員さんを呼んで、注文を済ませる。

「いやでも、思ったより客数が多くてよかった」

「そうなの?」

「ああ。ここはプライムタイムは客の入りがいいんだけど、オフピークの時間帯が課題だったんだ。こういったメニューだと、どうしたって年配の客層が主体になるだろ?」

「まあ和食だと、そうなのかな」

「ところがその年齢層は、ランチとディナーの時間帯はいいんだけど、その中間の時間帯は手薄になる。だから若年層、この間も話したけどF1層にも来店してもらうようにメニューを追加したんだ」

「えっと、若い女性をターゲットに、ってこと?」

「そうだ。具体的には和風の甘味メニューを増やしたんだよ。えっと……ここだ」

 宝生君は、メニューのあるページを開いて私に見せた。
 そこには和風のデザートがたくさん載っていた。
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