イケメン御曹司とは席替えで隣になっても、これ以上何も起こらないはずだった。

No.22:勉強会でもやる?

「そ、そんなことないでしょ? 家でお料理を作ってくれる人とかいるわけだし」

「ああ、彼らは使用人だろ? 対価を支払って料理を作ってもらっているわけだ。そういうんじゃなくて、ボランティアで俺のために作ってくれたのが、って意味だ」

「過去に付き合った女の子とかは? さすがに何かあるでしょ?」

「ないな。記憶にない。いつもどこかに行って、俺がご馳走する。俺もそれが当たり前だと思っていたからな」

「あんた、本当にロクな付き合いしてこなかったんだね」

「返す言葉がないな」

「でも……私でいいの?」

「……どういう意味だ?」

「いやその……べ、別に彼女じゃないわけだし。私、見た目だってこんなんだし、体の凹凸もないし」

「なんでそこにこだわるんだ?」

「あ、あんたが言ったんでしょ!」

 声が大きくなった。
 それが照れ隠しだとは、認めたくなかった。

「それか、勉強教えてくれよ。特待生なんだろ?」

「え? いいけど……教育係の人、いるんでしょ?」

「ああ。でもさすがに高2とかになるとキツいみたいだ」

「そうなんだね……じゃあ勉強会でもやる?」

「頼めるか?」

「うん。ちなみに……宝生君、学年順位ってどれぐらいなの?」

 うちの学校は、試験ごとに学年順位が出る。

「いつも30番前後だ」

「えっ? かなりいいじゃん。教える必要なんか、ないんじゃない?」

「科目に偏りがありすぎるんだよ。理系と英語はいい。現代文、古典、世界史がかなり悪い。古典とか、マジでこの世の中からなくなって欲しい」

「そうなんだね。じゃあ今度の中間の前に、一緒に勉強しよっか」

「ああ、頼む。そうしてくれ」

「えーっと……その、他の友だちとか、誘ったほうがいい?」

「いや、俺はいないほうがリラックスできる」

「そ、そうなの? わかった」

「頼む」

 それはいいんだけど……また2人で合う機会が増えるってことだよね。
 私はなんだか、胸の中にある感情をうまく表現できなかった。

 食事を終えて帰り支度を始める。
 釜飯のセットは、全てが美味しかった。
 宝生君といろんな話をした。
 自分の知らない世界をたくさん聞かせてくれて、とても楽しい時間だった。

 宝生君は食事券で会計を済ませてくれた。
 私はお店の出口付近で待っていた。

「いつもありがとう。遠慮なく、ご馳走になります」
 私は軽く頭を下げる。

「いいって。気にするな」

 2人揃ってお店の外へ出る。
 あたりは少しづつ暗くなり始めていた。

「どうする? よかったら車で家まで」

「あれ? 宝生君? それと……月島さん?」

 突然私の背後から、甘ったるい声が聞こえた。
 できれば聞きたくない類の声だった。

「み、美濃川さん、偶然だね。買い物かなにか?」
 私は反射的に声を出した。

「え? う、うん、そうだよ。ていうか、ちょっと待って……ひょっとして2人で食事してたとか?」

 美濃川さんの声は、かなり焦りの色を帯びていた。

「違う違う。偶然出口で一緒になったんだよ。私も一人で買い物に来て、なにか甘いものを食べたいなって思ってここに入ったんだ。それで会計の時に偶然宝生君と一緒になって、びっくりしたよ」

 私は一息でそう取り繕った。
 宝生君は、胡乱げに私を見ている。

「あーそういうこと。そうだったんだね。ふーん……えっと、宝生君。もしよかったら、これから」

「ごめん、じゃあ私帰るね。宝生君もまた明日」

「お、おい!」

 私は2人に背を向けて歩き出した。
 宝生君には本当に申し訳ないけど、私との仲を疑われるようなことはしたくない。
 特にあの美濃川さんには、だ。
 最終的に宝生君にも迷惑がかかるようになるかもしれない。
 そんな可能性は、少しでも残したくなかった。

 宝生君、ゴメン……。
 私は心のなかで何回も謝りながら、家路を急いだ。
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