イケメン御曹司とは席替えで隣になっても、これ以上何も起こらないはずだった。

No.41:なんで……

 夏休みの二日前。
 明日は終業式とHRだけだから、今日が学校で授業のある最後の日だ。

「華恋、帰ろー」
 授業も終わり、いつも通り柚葉が声をかけてきた。

「うん」

「月島さん、ちょっといい?」

 私の声にかぶせるように、そんな風に私を呼ぶ声が聞こえた。
 いつもの甘ったるい声じゃなくて、低くて不機嫌そうな怒気を含んだ声。

「美濃川さん?」

「時間取らせないから」

 とてもノーとは言えない雰囲気だ。

「ごめん、柚葉。先に帰ってて」

「……大丈夫?」

 美濃川さんからの突然の呼び出しに、柚葉も戸惑っている。

「うん、また連絡するから」

「……わかった。じゃあね」

 柚葉はそう言って、教室を出ていった。

「場所を変えましょ」

 そう言って教室を出ていく美濃川さんの後をついていく。
 校舎の階段を登って、屋上に出るドアの前。
 そこには、もう2人女子生徒が待っていた。
 浜辺さんと有村さん。
 同じクラスの美濃川さんの取り巻きだ。

 私は一瞬、ヤバいと思った。
 でも女の子3人だったら、何か起こっても多分振り切って逃げられると思った。
 なのでとりあえず話を聞くことにした。

「手っ取り早く要件を言うわね」

 美濃川さんは切り出した。

「宝生君に近づかないで。あんた、目障りなんだよ」

 この声から、どうやったらあの甘ったるい声が出せるようになるんだろう。
 私はそんなことを考えていた。

「どうせうまいこと言って、たぶらかしてるんでしょ? これだから頭のいい子は」

「別にたぶらかしてるなんて……」

「あんたね、物事には釣り合いってもんがあるの。あんたと宝生君、釣り合うと思ってんの? おとなしく勉強だけしてなよ」

 じゃあ美濃川さんは釣り合ってるの?とツッコみたかったが……
 次のセリフを聞いて、その気が失せた。

「それにあんたのお父さん、筋のよくないところからお金を借りてるそうじゃない」

 私は背筋が凍った。
 
「なんで……」

 なんでそんなこと知ってるの?
 それに……お父さんやっぱり筋のよくないところから、お金を借りてたの?

「普通の生徒なら、まあ問題ないかもね。でもあんた、特待生でしょ? 家庭環境に問題があるってわかった場合、特待が外れることもあるわよ。とくに反社の息がかかったところとから借金してるとか、PTAが黙っちゃいないんじゃないかな」

「そんな……」

 私は美濃川さんが口角を上げるのを見て、血の気が引いた。
 
 そして私は理解した。
 これは脅しだ。
 美濃川さんのお父さんは、PTA会長。
 特待が……外れる?
 それは私にとって、学校をやめることを意味する。

「ま、悪いことは言わないわ。とにかく宝生君に近づかない。わかったわね。二度目はないから」

 そう言って美濃川さんは、取り巻き2人と一緒に階段を降りていった。
 私はその場に、呆然と立ち尽くしていた。
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