イケメン御曹司とは席替えで隣になっても、これ以上何も起こらないはずだった。

No.05:一緒に行く?

「やっぱり女性は、こういうのに弱いのか?」

「こういうのって?」

「季節限定とか、地域限定とか」

「あー……そうだと思うよ。やっぱり今だけ、ここだけ、っていうのには弱いじゃん」

「やっぱり消費者心理としては、そうなんだな」

 なんだか着眼点が、ビジネスライクだ。

「まだ他にもあるかもしれない。探してみて、あったらまた持ってくるわ」

「え、いいの? 自分で食べればいいのに」

「そんなにキャラメルばっかり食べられないだろ?」

「そうかな? 私はウルトラソフトだったら、多分無限に食べられると思うけど」

「どんだけ好きなんだよ」

 宝生君は呆れながら、やわらかく笑った。
 このイケメンのキラースマイルに、やられる女の子が多いんだろうな……。

「ところでお前、ここ知ってるか?」

「名前」

「ん? ああ、月島、これなんだが……」

 そういって彼はポケットからクーポン券のようなものを出してきた。
 それは小冊子のようになっていて、中を開いてみるとマックドーナッツの無料引換券だった。
 
 ちなみにマックドーナッツとは、ハンバーガーからドーナツまで取り扱い商品の多い日本最大のファストフードチェーン。通称マクド。
 
 その無料引換券には各ページに3枚、バーガー類、サイドメニュー、ドリンクそれぞれの引換券が1枚ずつ付いている。

「へー、いいじゃんこれ。タダで食べられるんだね」

「行ったことあるか?」

「へ? マクドに?」

「そうだ」

「あるわよ。当たり前でしょ。逆にないの?」

「ない」

 即答だった。

「え? マジでないの?」

「ないな」

 マクドに行ったことない現役の高校生なんて、存在するの?

「友達と行ったりとかしないの?」

「そもそも友達がいない」

 即答だった。

「な、なんかゴメン……」

「別に。気にしていない」

 でも……宝生君ぐらいの存在になると、あり得るのかな。
 クラスの中での彼の様子を思い出すと、それも納得できた。
 周りの人間は恐れ多くて、なかなか声を掛けられない。
 それに彼自身も「近寄るな」オーラを常に全身から発している。
 これでは孤立するのは当たり前だし、また彼自身もそれを気にしている様子もない。

「どんな所なんだ?」

「どんな所、って……」

 マクドがどんな所かを説明しなくちゃいけない状況って、どうなの?
 しかも現役高校生に。

「ていうか、実際にいけばいいじゃん。この無料クーポン持って」

「一人でか?」

「友達と、って……そうか、いないのか……」

 ……と、ここまで言ったところで、その可能性に気がついた。
 ちょっと待って……これって、そういう前フリなの?

「えーっと……じゃあ、一緒に行く?」

「いいのか!?」

 即答だった。
 彼は一見無表情だけど、明らかに期待に胸を膨らませ目をキラキラと輝かせていた。
 嬉しそうなオーラを全身から感じる。
 まるでツンデレの柴犬が「散歩いくよ」と言われて、尻尾をブンブン振りながら近寄ってくる感じ。

 (ちょ、ちょっと……可愛いんだけど。)

 いつもの俺様からのギャップが激しいので、余計にそう感じてしまう。
 私はまた心臓のリズムが早くなった。

「よし、じゃあ行こう。これからすぐに行こう」

「ちょ、ちょっと」

「ん? ああ、勉強中だったな。何時に終わるんだ?」

「えっと……まあ、いいけど。じゃあこれから行こうか?」
 ちょうど今日はバイトもない。
 それにこれだけ楽しみにしているんだったら、早く連れてってあげた方がいいだろう。

「おお、そうか! それじゃあ早速行こう! どこにあるんだ?」

 ノリノリの宝生君に引っ張られるように、2人は図書館を後にした。
 でもよく考えたら……これって、放課後デートみたいじゃない?
 私はひとり勝手に、頬が少し熱を帯びているのを感じていた。
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