遠くに行ってしまった幼なじみが副社長となって私を溺愛してくる
 「……誰? いえ、どなたですか?」

 恐る恐る振り返ると、やはり知らない人物だった。癖っ毛のある茶髪に眼鏡をかけた青年。そんな人物は、このオフィス街にたくさんいる。

 ナンパ?

 いやいや、私を高野辺って呼んだことから、可能性は低い。恐らく知り合い、だと思う。

 すると、ストーカーという可能性も……いやいや、それこそあり得ない。堂々と目の前に現れるなんて!

 ……そういう人も、いると聞いたことがあるけれど、末期症状らしい。
 けれどそんな人物にも見えないから、恐らくは違うだろう。いや、そもそもこんな見た目も中身も平凡な私を好きになる人の方がもっとあり得なかった。

 あるとしたら、別の要素。けれどここは地元ではない。都心のオフィス街だ。メリットがない以上、可能性は低かった。

 そう、私の素性を知っている人なんて……この都内にはいるはずがないのだ。

 となると、この穏やかそうなイケメンさんは何者?

 「しら……じゃなかった、名雪(なゆき)だよ。覚えていない?」
 「なゆき?」

 そんな珍しい苗字の知り合いなんて……あっ!

 「雪くん?」

 小学校の時の同級生にただ一人、『雪』がつく苗字の男子がいた。
< 2 / 55 >

この作品をシェア

pagetop