遠くに行ってしまった幼なじみが副社長となって私を溺愛してくる
「今の僕の前で、目を閉じるのは危険だよ」
「さ、先にキスをしておいて、それを言うの?」

 そんなつもりで目を閉じたわけじゃないのに。

「想いが通じ合って、そんなに時間が経っていないんだから仕方がないだろう」
「そう、だけど……で、雪くんはそのまま白河家の養子に?」
「あ、うん。元々、会長には千春さんしか子どもはいなかったから、その後継に選ばれたんだ」
「そしたら、千春さま、じゃなかった社長と結婚話が持ち上がったんじゃないの?」

 普通、婿養子にするはずだから。

「早智がそれを言う? 勿論、断ったさ。小学生の頃から好きな相手がいるからって」
「会長は納得された、のよね。雪くんが副社長の位置にいるのだから」
「うん。だから僕が社長になるまでの繋ぎとして、今は千春さんが社長をしているんだ」
「社長は、それをどう思っているのかしら」

 リバーブラッシュの歴史はそんなに古くはないけれど、ずっと一族経営してきた会社だ。
 それを養子とはいえ、他人である雪くんに任せる、と父親が言っても、納得できるのだろうか。

 私はできない。高野辺家を疎んでいる私でさえも、当主の座に知らない者が座るだなんて、絶対に嫌だ。

 千春さまは、どう思われたのだろうか。それを知ったのは、一週間後のことだった。
< 26 / 55 >

この作品をシェア

pagetop