遠くに行ってしまった幼なじみが副社長となって私を溺愛してくる
 「もしかして、雪くん、なの?」

 でも彼は色白くて、細身で……目の前の男性のように、がっしりした体型ではなかった。それに眼鏡も……していなかったように思える。

 とはいえ、それは小学生の頃の記憶だ。あれから何年、経っていると思っているのか。しっかりなさいよ、高野辺(こうのべ)早智(さち)
 たとえ相手が雪くんであっても、なくても、ここは一先ず謝らなければ……。わざわざ相手が名乗ってくれたのに、この返答はない。

 けれど視線を向けた途端、私の見識が間違いではなかったと気づかされた。何故なら雪くんは、満足そうに微笑んでいたからだ。

 思わず、ドキッとしてしまう。

 「うん。というか、懐かしいな。その呼び名」
 「あっ、ごめん」

 咄嗟に出たとはいえ、目の前の男性に言う呼び名ではなかった。あだ名と言えば、許せる範囲内であるけれど、彼は「呼び名」と言ったのだ。

 その裏の意味が分からないほど、もう子どもではない。

 「何が?」
 「何って、その、呼び名……ちょっと可愛いでしょう」

 今の貴方に似合わないわ。
 確かにまだ白っぽい印象を受けるけれど、それは白衣のような上着を羽織っているせいだと思った。
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