遠くに行ってしまった幼なじみが副社長となって私を溺愛してくる
 けれど、そういう予想ほど当たるものである。

 久しぶりの街を前にしても、懐かしいという感情は湧き上がらなかった。六年という月日と都心に近いこともあって、昔の面影など全く見られなかったからだろう。

 けれど、早智の家の場所は変わらない。玄関先も、また。

「あら、名雪くん。いえ、白河さんでしたね。なかなか慣れなくて、ごめんなさい」

 出迎えてくれたのは早智の母親だった。再会した時は、懐かし気に接してくれていたものの、僕の企みを知ったからなのか、あからさまな嫌味を言ってきた。
 しかしこっちは子どもの頃から散々聞かされてきた身。その程度では傷つきやしない。

「いえいえ。僕も生まれ故郷に帰って来ると、名雪の方が馴染むので、どちらでも構いません。お好きな方で呼んでください」

 立場が弱かった頃の苗字を気にするとでも?
 むしろ僕は、名雪姓の方が好きだった。確かに、嫌な記憶の方が多いけれど、すぐに早智は気づいてくれたし、「雪くん」と呼んでくれるのが嬉しかったからだ。

 だから早智を返してもらうよ。
< 32 / 55 >

この作品をシェア

pagetop