遠くに行ってしまった幼なじみが副社長となって私を溺愛してくる
「あの子、なかなかしぶといわね。千春さまが言うには、旧家のお嬢様らしいじゃない。だから多少、いじめればすぐに退職するって思ったのに」
「そうすれば、千春さまからご褒美が貰えるし」
「仕事をあの子に押し付けているから、こうして楽もできる」

 いいこと尽くしよね~。

 ある日、そんな会話を聞いてしまった。小楯さんたちは休憩室で盛り上がっているだけなのだが、私にとっては聞き捨てならない話だった。

 つまりこれは、千春さまのご命令。
 そして将来、社長夫人となる私に媚びを売るよりも、現社長の命令に従う方が、小楯さんたちにとってはメリットがあることを示していた。

 確かに千春さまの方が社内でも、存在感も権力も強い。
 雪くんにいい感情を持っていないのだから、当然……私に媚びを売っても意味を成さないと思われたのだ。

 屈辱だった。自分に対してじゃない。雪くんが軽く見られたことが許せなかった。
 ほんの少し前までは、牽制目的で私のところに来たくせに、すぐに千春さまに尻尾を振るうのも、また。

 だから油断した。小楯さんたちが休憩室から出てくるタイミングを見逃してしまったのだ。
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