遠くに行ってしまった幼なじみが副社長となって私を溺愛してくる
「やだ、この子。立ち聞きしていたの?」
「もしかして、副社長に告げ口とかしないでしょうね」
「今までのことだってしていないみたいだから、大丈夫じゃない?」
「でも、さっきの内容は意味合いが違うから……」

 どうする? と顔を見合わせる小楯さんたち。私はその隙をついて逃げた。

 とはいえ、私は社内に詳しい方ではなかった。営業課と総務課以外の場所はチンプンカンプン。
 お昼だって、自分のデスクでとっている。時間内に戻れる自信もなく、今は小楯さんたちのせいで仕事に追われているから、でもあった。

 けれどここで、総務課に向かうのは得策ではない。これ以上、迷惑をかけたくなかった。
 多分、小楯さんたちのように大っぴらなことはしなくても、心の中ではよく思っていないのだろう。その証拠に、誰も手伝ってはくれなかったのだ。

 雪くんに助けを求める? いや、ここは私一人で解決しなければ!
 こういうことはこれからも起きる。毎回、雪くんを当てにするような女にはなりたくなかったのだ。

 だから私は、非常階段の方へと足を向けた。
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