遠くに行ってしまった幼なじみが副社長となって私を溺愛してくる
 その理由は簡単だった。同じフロアにいる限り、小楯さんたちの方が有利なのだ。相手は三人。すぐに挟み撃ちにされてしまうからだ。

 けれど階段だと、それはできない。さらにフロアを壁沿いに走っていれば、いずれ階段に行き当たるメリットもあった。

 私の息が続けば……。

「捕まえたわよ」

 非常階段に出た瞬間、笠木さんに腕を掴まれた。三人の中で一番若く、ヒョロッとしている女性だった。そして小楯さんの一番の腰巾着。

 よりにもよって、この人に捕まるだなんて……!

「さぁ、早く戻りなさい。仕事をサボる気? あんたみたいな新入社員が、堂々とそんなことをすると、指導係の私たちが怒られるんだから」
「指導係? アレが指導というんですか? 言っていましたよね、いじめればすぐに退職するって」
「何よ、それを副社長に言うの? まぁ、言ったところで揉み消されるでしょうけどね」
 だったら尚更、私を止めるのは何故ですか? 怖くも何ともないのなら、離してください!」

 私は思い切って、笠木さんの腕を払った。その瞬間、体が後ろに傾き、そのまま……。

「あっ」

 物凄い音を立てて、階段から転げ落ちた。
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