遠くに行ってしまった幼なじみが副社長となって私を溺愛してくる
「そこにいる笠木と小楯、横倉が逃げないように捕まえておいてくれ」
「了解しました。あと、救急車の手配は済ませておきました。間もなく到着するかと」
「……助かる」
「いえ、お助けできず、申し訳ありません」

 宇佐美は早智のSPじゃない。本当なら謝る必要はないんだ。けれど今は、その言葉に助けられたような気がした。

 早智に駆け寄り、抱き締めたい気持ちを抑える。こういう場合、下手に動かしてはいけないからだ。
 けれど髪から薄っすらと見える血が痛々しい。

「今度は僕が守るって言ったのに……」
「ゆ、き……くん?」
「早智!」

 横向きのまま、早智が僕を見る。良かった、意識がある。

「今は動かない方がいい。頭を強く打ったのか、血が出ているから」
「血?」
「うん。でも、もうすぐ救急車が来るから安心して」

 僕の言葉に早智は、目を瞬きさせて答える。

 声を出すのも辛いのか? そう思っただけで、胸の奥から怒りが込み上げてくる。早智に危害を加えた笠木は勿論のこと、何もできなかった自分に対しても……。
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