お試しデートは必須科目〜しなけりゃ卒業できません!〜
ご希望は?と聞かれて、特に思いつかない私はお任せすることにした。

今は肩下までの長さだったが、肩につかないくらいに短くしてもいいか?と聞かれて、大丈夫です、と答える。

あとはひたすらじっとしながら、時折隣で単語帳を見ている工藤くんを見ては、笑いをかみ殺していた。

「いかがでしょうか?」

40分程経って声をかけられた工藤くんが、ようやく顔を上げて鏡を見る。

「え…」
「わあ!いいね、工藤くん」

鏡の中の自分に戸惑っている工藤くんに、私は思わず声を上げる。

短く切り揃えた髪を軽くサイドに流し、鬱陶しかった前髪はすっきり整えられ、サラリと額にかかって爽やかだ。

「いい!めちゃくちゃいいよ、工藤くん」

少し前の、黒縁眼鏡にボサボサ頭の工藤くんとはまるで別人だった。

「うわー、隠れイケメンだったんだね、工藤くんって」

1人で興奮していると、できました!と私も声をかけられる。

「おお!樋口もいいよ。見違えた」

「そうかな?」

「うん。絶対こっちの方がいい」

鏡の中の私は肩よりも少し上の長さで、ボリュームを軽くしてくれたのか、ふわっと軽やかに揺れるボブだった。

「ワックスをつけて、少し髪に空気を含ませた感じにしておきますね」

お姉さんは手のひらにワックスを伸ばすと、私の髪の中に手を入れて、くしゅっと動きをつけていく。

「いかがでしょうか?お二人並んでみてください」

促されて、私達は鏡の前に並んだ。

「いいですねー。とってもお似合いのカップル!」

え、カップル?と、私達は怪訝な面持ちになる。

「お二人とも、爽やかで初々しい感じで揃えてみました。雰囲気も似てますね。どうですか?お互いの新たな一面って感じでしょうか?」

「あ、はい。まあ、そうですね」

「あら、照れちゃって可愛らしい。まだつき合い始めたばかりですか?」

「そ、そう、でしょうか、ね」

「ふふ、いいですね」

お姉さんの言葉に、工藤くんはタジタジになっている。

「ありがとうございましたー!」

スタッフの皆さんに明るく見送られ、私達はうつむいたまま歩き出す。

「なんか調子狂うな」

「そうだね。でもほんと、工藤くんかっこよくなったよ。断然こっちの方がいい」

「樋口もな。めちゃくちゃ可愛くなった」

え!と私は真っ赤になる。

工藤くんの口から、可愛いなんて言葉が出てくるとは思わなかった。

二人してギクシャクと固い動きで歩き続ける。

「とにかく、本屋に行こう。参考書を見れば、いつもの自分を取り戻せる」

「うん、そうだね」

私達はビルの5階にある本屋さんに向かった。
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