お試しデートは必須科目〜しなけりゃ卒業できません!〜
今日の最後の予定は、私の買い物だった。

本屋さんの下の階に、ファストファッションの大型店舗が入っている。

私はシンプルなTシャツと、薄手のロングカーディガンをパパッと選んでレジに向かう。

会計を済ませて、お待たせ、と工藤くんを振り返ると、ふとメンズコーナーの服が目についた。

「ね、工藤くん。ちょっとこれ当ててみて」

私は水色の半袖シャツを、工藤くんの胸に当てた。

「あ、いいね!工藤くん、この色似合うよ」

「え、そうか?こんな色着たことないけど」

「着たことないだけで、本当は似合うんだって。こういう色の服、持ってないの?」

「ああ。いつも下は黒、上は白って決まってるから」

「決まってるって、誰が決めたの?」

「俺」

しばしポカンとしたあと、私は思わず吹き出して笑う。

「あはは!工藤くんって、真面目なのか面白いのか分かんない」

「は?この俺に面白い要素なんて、どこにあるんだ?」

「そのセリフも面白いよ。あはは!」

工藤くんは、いよいよ眉を寄せてしかめっ面になる。

「ね、このブルーのシャツ、補助金で買えるかな?」

「え、買うの?俺に?」

「うん。どうしてもこれを着た工藤くん、見てみたいんだもん」

「はあ?何を期待してるのかさっぱり分からん」

「いいから!ね、買っちゃおうよ」

「んー、補助金は主に交通費と飲食代ってことだったから、これは下りないかもよ?」

「そっか、残念…」

しょんぼりしながら服を棚に戻そうとすると、工藤くんが横から手を伸ばしてきた。

「期待に添える保証はないぞ?」

そう言い残し、シャツを手にしてレジに向かう。

私はパチパチと瞬きを繰り返してから、工藤くんの後ろ姿に満面の笑みを浮かべた。
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