お試しデートは必須科目〜しなけりゃ卒業できません!〜
「おはよう!樋口さん、髪切ったんだね。心境の変化でもあったの?」

翌日の月曜日。

登校して教室に入ると、隣の席の沢田さんに話しかけられた。

「おはよう。暑くなってきたから、短くしたかっただけなの」

咄嗟にどうでもいいような口調でそう言ってしまう。

「そうなんだ。でもすごく似合ってる」

「え、そうかな?」

「うん。いいなー、私もイメチェンしようかなー」

沢田さんは、長い髪の毛先をクルンと指に巻きつけながら首を傾げる。

(女の子っぽいなぁ。私にはこういう可愛らしさ、欠片もないわ)

ふいに昨日の工藤くんとのやり取りを思い出して、はあ…とため息をついてしまった。

「ん?樋口さん、なんか悩みごと?」

「あ、ううん。別に」

「そう?」

またもや可愛く首を傾げてみせる沢田さんに、愛想笑いで誤魔化していると、後ろの席の笠原くんが登校してきた。

「おはよう、沢田」

「あ、おはよう」

その途端、二人の間に何やらホワワーンとした空気が流れる。

(ん?なんだ?)

気のせいかとも思ったが、やはり私には馴染みのないメルヘンな雰囲気が漂っている。

(あ!沢田さんと笠原くんのスクバ、同じマスコットがついてる)

二人のスクールバッグを交互に見比べると、犬のキャラクターのキーホルダーがついていた。

沢田さんのは女の子、笠原くんのは男の子で、お揃いのマスコットだ。

(なーるほど!二人って課外活動のペアなんだ)

ふむふむと納得した私は、他の人も観察してみた。

すると、何人かいつもと様子が違う人がいる。

髪型や雰囲気が変わっていたり、特定の人を目で追っていたり。

分かりやすく、次はいつ会える?と話し合っているペアもいた。

(そっか。みんな課外活動で何度かデートした頃だもんね。いい感じになってるんだなぁ)

ニンマリしてしまってから、昨日の散々な出来事を思い出して、またため息をつく。

結局私は、次にいつ会うか、工藤くんと決めていないままだった。
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