お試しデートは必須科目〜しなけりゃ卒業できません!〜
第八章 大切な宝物
受験勉強の合間に、私達は図書館で一緒に勉強したり、電話で問題を教えてもらったりしながら、ペアの活動を続けていた。

10月の初めに高校生活最後の球技大会があり、それぞれ希望する種目にエントリーする。

私はテニス、工藤くんはサッカーを選び、お互いの様子をこっそり観戦した。

いつかの言葉通り、工藤くんは私の予想よりも遥かにサッカーが上手で、そのかっこよさに思わず私は惚れ直してしまった。

工藤くんも、私のテニスが上手だったと、その日の夜に電話で興奮気味に話してくれる。

「なんかさ、最初はただ上手いなーかっこいいなーって見てたんだけど、そのうち不安になってきて…」

「ん?なに、不安って」

「だって、テニスしてる樋口がキラキラ輝いてるから、誰かがまた樋口に言い寄って来るんじゃないかって気が気じゃなくて」

は?と私は呆気に取られる。

「そんなことある訳ないでしょ?」

「何言ってんの。ある訳あるよ」

「ある訳ある?そんな言葉あったっけ?」

「いいから!とにかく心配なの」

「ふふっ、それなら私も。サッカーやってる工藤くん、かっこよくてね。周りの女の子達もヒソヒソ言ってたよ。工藤くん、頭いいだけじゃなくてスポーツもできるなんてすごいねって。あーあ、誰かが工藤くんに告白したらどうしよう」

「それってヤキモチ焼いてくれてるの?」

「え、そ、そうですね、まあ…」

「ははは!」

「もう、そんな軽く笑わないでよ」

「だって嬉しくてさ。心配しなくても、俺全然モテないよ」

「またそんなこと言って。そう思ってるのは本人だけだよ」

「そんなこと言ってくれるのも樋口だけだよ。大丈夫、俺、樋口しか見えてないから」

私は言葉を失くして真っ赤になる。

「もしもし?聞いてる?」

「きき、聞いてます」

「なんでそんなに焦ってるの?」

「知りません!」

「へ?分かんねーな、女心って」

「学んでください!」

「あはは!樋口がテキスト作ってくれたらね」

他愛もない会話で、どうしてこんなに幸せな気持ちになるのだろう。

私達は関係を続けながらも、表向きは10月いっぱいで活動を終了することにした。

なぜなら、活動内容が気恥ずかしくてまともに書けなくなってしまったから…

ついつい長話になってしまう電話を切り上げて、私達はまた勉強に戻る。

二人で励まし合って、合格を掴み取る為に。
< 39 / 70 >

この作品をシェア

pagetop