お試しデートは必須科目〜しなけりゃ卒業できません!〜
紅白の幕で飾られた体育館の入り口に並び、私達はいよいよ緊張の面持ちで時間になるのを待つ。

「卒業生、入場」

マイクの声のあと、弦楽部が奏でる厳かな音楽が聴こえてきた。

「3年1組」

閉ざされていた扉が左右に開かれる。

列席者が一斉に振り返り、拍手で迎えてくれた。

私達は2列に並んで赤いカーペットの上を歩いて行く。

ふと、笑顔で拍手してくれているお父さんとお母さんの姿が目に入り、私は少し微笑んだ。

卒業生が全員入場して席に座る。

この中には工藤くんもいるはずだ。

今日はまだ顔を合わせていないけれど、今この空間で一緒に式に臨んでいるかと思うと、なんだか身が引き締まる思いがした。

「卒業証書 授与」

開式の辞、国歌斉唱のあとに、いよいよ卒業証書の授与となり、一人一人名前を呼ばれて登壇していく。

「樋口 結衣」

「はい」

うやうやしく校長先生から証書を受け取ると、感慨深く涙が込み上げそうになった。

席に戻ると、他の生徒の授与の様子を見守る。

1組が終わり、2組の生徒が順に呼ばれていた。

「工藤 賢」

「はい」

私は少しドキッとしながら、姿勢を正してステージを見つめた。

スッときれいな所作で両手を伸ばした工藤くんが証書を受け取り、片手に収めてからていねいにお辞儀をする。

かっこよく堂々とした立ち居振る舞いに、私は惚れぼれしてしまった。

無事に卒業生全員に証書が授与され、校長先生の式辞や来賓の祝辞、在校生の送辞と式は進行する。

そして…

「卒業生答辞 総代 3年2組 工藤 賢」

「はい」

それだけで私は泣きそうになってしまった。

そう、工藤くんは卒業生を代表して、答辞を述べることになっていたのだ。

リハーサルでは流れだけの確認で、実際に言葉を聞くのはこれが初めて。

私は固唾を飲んで、凛とした姿で登壇した工藤くんを見つめた。
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