【超短編】その日から優しい雨の日には必ず水瀬くんの笑顔を思い出すようになった。
 水瀬くんは教室の窓側の、一番後ろの席にいる。なんていうか、見た目が中性的で動きもふわっとして、可愛くて不思議な男子。

 休み時間も用事がない時はずっとひとりで席に座っている。窓の外を気だるそうに眺めていて、静か。動きも静かすぎて、物音ひとつ立てる姿を見るのも貴重だと思う。


 私は休み時間、窓側前方で友達と話をしているのだけど、いつも自然に私の視線は友達を越えて水瀬くんにいく。

 外を眺めている水瀬くんの視線の先には、水瀬くんに似合う薄紫色の紫陽花が満開に咲いていた。

 いつも紫陽花を眺めているのかな?
 いつも何を考えているのだろう。

 窓が開いていて、一瞬強い風がふわっと吹いてきた。

 水瀬くんの耳の下辺りまである、ふわっとした黒髪が揺れた。そして水瀬くんは風が目に入るのを避けるように、目を一瞬ぎゅっと閉じた。

 その姿も可愛い――。
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