神様の恋まじない
◆近いのに遠すぎる距離◆
「あ、見て。梨木陽菜だ。廊下のとこ」
じめっとした空気がまとわりつく、六月の昼休みの終わり間際。
自分の席で次の授業の準備を一足先にしていると、後ろからトーンを落とした冷たい声が聞こえてきた。
どきりと心臓がいやな音を立てる。
見たくもないのに呼ばれたその名前に反応して、思わずその子がいるであろう廊下の方を見てしまう。
そこには教室のドアのところからひょこっと顔を覗かせた、一個下の見知ったかわいい女の子がいた。
誰かを探すかのように、きょろきょろと視線をさ迷わせている。
……陽菜ちゃん、また来たんだ。
一年生が二年生の教室に来るなんて、かなり目立つのに……。
誰かを探しているような、なんて言ったけど、正真正銘誰かを探しているんだ。
それが誰かなんて、言うまでもないけれど……。
二年生になってから、もう何回この光景を見たのかな。
きっと両手の指を使っても、足りないくらいだ。
わたしは周りに気付かれないように、ひとつだけ小さくため息を吐いた。
いまのわたし、いったいどんな顔をしているだろう。
変な顔をしていないといいけど。
ふつうにしなきゃ、ふつうにしなきゃ……。
心の中で何度も呪文のように唱え続けた。