神様の恋まじない

「……なに話してたの」

「え……?」

「いや、困ってるみたいだったから」

 声をかけられたことに驚いて亮の方をじっと見る。

 黒い瞳がまっすぐこっちを見ていて、どきっと胸が高鳴った。

 最近こんなふうに視線を合わせることなんてなかったから、余計緊張する。

 ……でも、そっか。

 わたしが困っていると思って、亮はわざと割って入ってくれたんだ。

 亮の些細な優しさに気が付いて、今度は胸がじんわりと温かくなっていく。

 その優しさがうれしいのに、なぜだか悲しくなるんだ。

「……なんでもないよ」

「……あっそ」

 こんな短い会話でも、ほんとうは飛び上がりたいくらいうれしいのに。

 すぐにそっぽを向いてしまった亮の後ろ頭を見て、こんなに近くにいるのに遠いなって、改めて思った。

< 38 / 146 >

この作品をシェア

pagetop