神様の恋まじない

「そもそも、一番大切って、なんなんですかね? 自分でもわからないのに、神様は私の一番大切なものがなにかわかるんですかね?」

 陽菜ちゃんの素朴な疑問に、わたしはうろたえながらも必死で答えを探した。

 大切って言ったら、例えば……。

「大切って、命とか、家族とか、友達じゃないの……?」

 わたしがおずおずとそう言うと、陽菜ちゃんはふふっとかわいらしい声をあげて笑った。

「まあ、ふつうはそうですよね? でも、"神様の恋まじない"ですよ? 私、このおまじないをやる前、考えてたんです。もしかしたら神様は、私の恋心を奪っていくんじゃないかって。恋まじないの神様は悪い神様で、願いを叶えた後に一番大事なものを奪うってくらいだから……」

 陽菜ちゃんの考えには、納得できる部分がある。

 けれど、全てを理解できたわけじゃなかった。

 ……やっぱり、おまじないなんて信憑性がないよね。

 心の中でそう思ったとき、陽菜ちゃんはぱっと顔を上げて、こっちを見た。

「……っ!」

 ……わたしはそのとき、はじめて陽菜ちゃんのこわい表情を目の当たりにした。

 思わず息をのむ。

 無表情で熱を灯さないような、冷たい顔だった。

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