愛し愛され愛を知る。【完】
「朔太郎くん!」
「姉さん」

 幼稚園へやって来た真彩はすぐに朔太郎の元へ駆け寄る。

「悠真はまだ……?」
「すみません。この辺りはくまなく探したんスけど全く……」
「……公園は?」
「一番に探したんスけど、居ませんでした」
「そう……。あの子、朝幼稚園行きたがらないところを無理矢理連れて行ったから、一人で家に帰ろうとして道に迷ったのかしら……」
「本当にすみません……」
「朔太郎くんのせいじゃないよ。昨日の今日で扱いにくいところを一生懸命歩み寄ってくれてたもの」

 真彩が朔太郎に居なくなった時の経緯を詳しく聞いたところ、お昼を食べた後に行方が分からなくなったらしい。昨日同様朔太郎と距離を置きたがる悠真に配慮して、他の保育士に傍に付くように頼んでいたようなのだが、ほんの少し目を離した隙に居なくなってしまったとの事だった。

「いや、例え悠真に嫌がられようと俺が傍に居るべきでした。俺の仕事なのに、本当にすみません!」
「朔太郎くん……」

 どう声を掛ければいいのか悩んでいる真彩の元に、

「朔、悠真はまだ見つからねぇのか?」

 少々息を切らせた理仁が現れた。

「理仁さん、すみません、まだ見つからないです」
「そうか……。ここへ来る前に一度自宅に寄ったが、やはり帰ってない。連れ去りの線も視野に入れて、少し範囲を広げて捜索した方が良さそうだな」
「連れ去り……」

 理仁の言葉に、不安気な表情を浮かべる真彩。

 幼稚園にいる間に居なくなってしまった事は園の責任だと園長を始め保育士たちもひたすら頭を下げていたのだが、こればかりは誰のせいでもないような気がした真彩は誰の事も責められないでいた。
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