愛し愛され愛を知る。【完】
「……そうか、それなら少し外へ出るか?」
「え?」
「寒いが、風に当たると気分も変わるだろう? まだ暗いから星も出ているし、気分転換には良いと思うぞ」
「そうですね、そうします」
「それじゃあ縁側に行くか。着替えてくるからお前も羽織る物を持ってくるといい」
「分かりました」

 各々準備をする為一旦別れ、十分程が経った頃、お茶とおにぎりを乗せたトレーを持った真彩が理仁の待つ縁側へとやって来た。

「すみません、お待たせしました。今お茶を淹れますね」
「ああ、済まない」
「あと、もし良かったら、おにぎりもどうぞ」
「わざわざ握って来たのか?」
「これならすぐに出来ますから。寧ろこれくらいしか準備出来なくて……」
「悪いな。それじゃあ頂くとしよう」

 真彩の気遣いに感謝しながら、おにぎりを手にした理仁はそのままかぶりついた。

「美味い」
「すみません、大した具材がなくて……」
「いや、いい。握り飯はシンプルなのが一番だ」

 おにぎりの中身は一つが梅干し、もう一つがたらこという至ってシンプルな物ではあったけれど、絶妙な塩加減の白米と相性が良く、理仁はあっという間に平らげてしまった。

「足りなかったですか?」
「いや、大丈夫だ。こんな時間だからな、これくらいで十分だ。ご馳走様」
「いえ、お粗末様です」

 温かいお茶のお陰で夜風は冷たいけれど、それがまた心地良いのか二人は他愛のない会話を交わしながら星空を眺めていた。
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