愛し愛され愛を知る。【完】
「いえ、寧ろこれは光栄な事なんスよ、姉さん」
「え?」
「姉さんや悠真は理仁さんにとって大切な存在なんスよ? だからその大切な人の傍に居るよう命じられるって事は、理仁さんの側で何かをする以上に重大な任務なんスよ。それを任されてる俺は頼られてるって事なんで、凄く光栄で嬉しいっス!」
「……そう、なの?」
「そうっスよ」
「……そっか……」

 朔太郎の言葉に驚いたけれど、理仁の大切な人という部分が嬉しかったのと、朔太郎の邪魔になっていなかった事を知れた真彩は安堵の表情を浮かべていた。

「それと、……今こんな時に聞く話じゃないのは分かってるんスけど……一つ聞いてもいいっスか?」

 喜ぶ真彩を前にした朔太郎は気になっている事があるらしく、いつになく遠慮がちに問い掛けた。

「何?」
「……姉さんは、理仁さんの事、どう思ってるんですか?」
「どうって……」
「俺が鬼龍組に関わった頃から理仁さんは女に見向きもしなかったんですけど、姉さんの事は常に気に掛けてる。まぁ姉さんたちは家族みたいなものだから当たり前って言えばそうなんだけど、今はもう、それ以上の感情がある気がするんスよね……」
「……理仁さんには良くしてもらって感謝してもし切れないくらい。理仁さんも私たちの事は家族のように大切な存在だって言ってくれたし、私もそう思ってる。ただ、それ以上の感情があるのかと問われると、自分の事だけど、ハッキリとは言えないんだよね」
「……そうなんスね。でもまぁ、それは仕方ない事なのかな。姉さんは悠真の母親だから意識的に『恋愛感情』を遠ざけてるのかも」
「うん、それはある。やっぱり、悠真がいる以上、私は母親だから自分の事よりも悠真を優先しちゃう。恋愛は今はいいかなって思っちゃうしね」
「すみません、変な事聞いて」
「ううん、気にしないで」

 朔太郎に理仁への感情を聞かれたものの、未だよく分かっていない真彩は濁して答え、その話はそこで終わってしまう。

 こうして真彩たちの居る地下室には比較的穏やかな時間が流れている頃、理仁たちの居る屋敷の外では緊迫した状況に置かれていた。
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