愛し愛され愛を知る。【完】
「わざわざ屋敷まで来るとは、余程の用件か?」
「ああ、すぐに確認したい事があったんでねぇ」

 理仁が表へ出ると、箕輪組の若頭、東堂(とうどう) (なお)が下っ端二人を引き連れて仁王立ちして構えている。

「ほお?」
「お前なんだろ? 玲香(れいか)に色々と吹き込んで俺と別れさせたのは?」
「玲香? ああ、あの頭の悪そうな女の事か」
「何だと?」
「あの女とは一度接触はしたが、駒にもならねぇから早々に見切りを付けた。別れた原因は俺じゃなくてお前にあるんじゃねぇのか?」
「お前、俺の女だった奴を悪く言うとか性格悪過ぎだろ? 嘘つくんじゃねぇよ! 玲香はお前に指示されて色々やらされたって言って泣きついて来たんだぞ!?」

 話の流れから、どうやら東堂の彼女だった玲香という女が何かの目的の為に理仁に騙され、自分との交際を絶つように指示したのではと疑っていて、その確認にわざわざ出向いて来たようだ。

「身に覚えのねぇ事でとやかく言われる筋合いはねぇよ。第一俺は人を騙して裏でコソコソと何かを企む様な真似はしねぇ。まどろっこしい事は嫌いだからな。それは解ってるだろ?」
「うるせぇ! じゃあ何か? 玲香が俺に嘘ついてるって言うのかよ? アイツは馬鹿かもしれねぇけど、そんな女じゃねぇんだよ!」

 けれど、それに身に覚えの無い理仁は東堂を一喝するも、玲香を悪く言われた事に頭の血が上った東堂は諦めるどころか更に詰め寄ってくる。

「はあ……。埒があかねぇな。そんな話をしに来たのならとっとと帰れ」
「ふざけるな! お前がそういう態度なら、こっちにも考えがある。前々から気に入らなかったんだよな、そのすかした態度がよぉ! 組長だからって調子こいてんじゃねぇぞ!」
「テメェこそ、自分の立場分かってて口聞いてんのか? 箕輪組は教育が行き届いてねぇらしいな」
「うるせぇんだよ! テメェこそ、先代が死んだから上がっただけで、組長なんて名ばかりだろーが! 覚えておけよ? 後悔しても知らねぇからなぁ!」

 暫く言い合いを繰り返した後、東堂は捨て台詞を吐くと下っ端たちに当たり散らしながら車に乗り込んで去って行った。

「……なんだって言うんだ、一体……」
「兄貴、放っておいても問題ないんですか?」
「……アイツが言ってた玲香って女の事が少し気になるな。何故俺が手引きした事になってるのか……その辺、調べてみてくれ」
「分かりました」

 東堂と理仁は古い知り合いで、昔はそれなりに会話を交わすような仲だったものの、互いに敵対する組織に属して以降は適度な距離を保ち続けていた。

 だから、東堂があそこまで怒りを露わにしながら理仁に向かってくるという事は余程の事があったという事。女に興味の無い理仁からしてみれば、東堂の女を誑かしたという話は濡れ衣もいいところだ。

 しかし、東堂からしてみれば理仁が女に興味があろうが無かろうが、目的の為ならば誑かして自分に好意を持たせる事もある筈だと思っているようで、誤解が解けなかった東堂の動向が気になる理仁は翔太郎に調べるよう任せ、自分は真彩たちの待つ離へと向かって行った。
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