愛し愛され愛を知る。【完】
「朔、悪いが運転を頼む」
「はい。向かう先は……」

 ミラー越しに後部座席に座る理仁と会話をしていた朔太郎は理仁の表情を見て言葉を失うと、それに気付いた真彩も理仁の方に視線を向けた。

「り、理仁さん……血が……」

 朔太郎も真彩も車内に戻るまで周りに目を向ける余裕がなかったせいか全く気付かなかったのだ。理仁が撃たれていた事を。

 撃たれたのは左肩辺りで、黒いスーツの下に着ている白いシャツはどんどん血に染っていた。

「このくらい、問題ねぇよ、さっさと向かってくれ」
「いや、流石にこのままって訳には……。ひとまず病院向かわないと!」
「こんなモン、自分で手当すりゃあいい。いいから俺が言う場所に――」
「駄目です! こんな怪我して、放っておくなんて絶対駄目です! 朔太郎くん、早く病院に!」
「は、はい!」
「真彩……」
「理仁さん、お願いですから、まずは手当を優先してください……お願い……」

 正直理仁は驚いた。真彩がこんなに声を荒らげて自分を制した事が。

 心から心配をしている事が伝わったのか、理仁は観念したように溜め息を吐くと、

「分かった……朔、病院は今から言う住所へ向かってくれ」

 知り合いが経営しているという病院の住所を朔太郎に伝え、一行は病院へ向かう事になった。
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