愛し愛され愛を知る。【完】
「姉さん、お待たせしました……あれ? 姉さん?」

 電話を終えて病室へと戻って来た朔太郎は居るはずの真彩の姿がない事を不思議に思う。

「姉さん? 悠真の様子でも見に行ったのかな?」
「……っ」
「あ、理仁さん!」
「……朔、か。どうやら俺は助かったみたいだな」
「当たり前じゃないっスか。ただ暫くは安静だそうですから、大人しくしててくださいよ」
「アイツはいつも大袈裟に言うんだ。命が助かったんなら問題ねぇよ。こんな所でいつまでも寝てる訳にはいかねぇ……っておい、真彩はどうした?」
「それが、姿が見えないんスよ。俺、さっきまで玄関先で兄貴に電話してたんスけど、戻って来たら居なくて。けど多分、悠真が寝てる部屋に様子を見に行ったんだと思うんで見てきます」
「ああ、頼む」

 この病院は自宅を兼ねている事もあって出入口は限られている。玄関先には朔太郎が居た事もあって、人が出入り出来るとすれば医者や看護師が控えている診察室や待合室やトイレの窓くらいのもの。二階の住宅に続く階段は診察室奥にある為、医者が控えている以上そこからの出入りは有り得ない。病室の窓は玄関先からも見える為、電話をしながら時折確認していた朔太郎は侵入者が居ないことを確信していた。

 だからまさか、真彩が外へ出ているなんて思いもしなかったのだ。
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