愛し愛され愛を知る。【完】
 その頃、真彩はというと理仁の思惑通り惇也の元へやって来ていた。やって来た、というより連れて来られたという方が正しいだろう。

「何だよ、お前から会いに来るなんて。やっぱり俺とやり直したくなったのか?」
「馬鹿な事言わないで。私の後を尾けるように頼んだのは貴方でしょ?」
「さあな? そんな事した覚えはないぜ?」
「それならどうして、私が今此処に来る事が出来たのよ? 私を此処へ連れて来た男の人は、惇也の仲間でしょ?」

 真彩は病院を出た矢先、何者かに口を塞がれ無理矢理車に押し込められ、辿り着いた先が惇也の元だったのだ。

「知らねぇって」
「本当に最低ね。とにかく、私に不満があるなら直接言ってよ! 納得したフリして安心させて命を狙うなんて酷過ぎる!」
「うるせぇな。何とでも言えよ。俺はな、お前が許せねぇんだよ。鬼龍の組長なんかと一緒にいるお前が!」
「何で? 私が誰と居ようが関係ないじゃない? 捨てたのはそっちでしょ?」
「相手の問題なんだよ! アイツはな、当時俺が惚れてた女を横取りした上に、ゴミのように捨てたんだぞ!?」
「え……?」
「お前、何も知らねぇのな。お前と別れるキッカケになった女だよ。アイツは鬼龍の奴に言い寄られて惚れ込んだ。それなのに、騙されて捨てられた。それが許せなかった。不幸のどん底に落ちた俺がようやく光の見えた明るい暮らしが出来ると思ってたのに、またしても俺の人生はどん底だ。許せなかった。だから俺は鬼龍と敵対してる組織を探して、下っ端から成り上がったんだよ。鬼龍に復讐する為にな」

 惇也の言葉に真彩は言葉を失った。
 理仁に限って、そんな事をするだなんて信じられなかったから。

「嘘よ、理仁さんがそんな酷い事……」
「お前、つくづくめでたい奴だな」
「惇也の言う事なんて信用出来ない」

 一瞬惇也の言葉を信じそうになった真彩はすぐに思い直す。理仁がそんな酷い事をするはずがない、仮に惇也と交際関係にあった女性と関わる事になったとしても、それは何か理由があって近付き、相手が勘違いして惚れ込んでいっただけ。そして、任務を遂行した理仁が女性から離れたら捨てられたと解釈しただけ、そうであると信じていた。

「別に信じて貰えなくてもいいさ。俺は俺の目的が果たせればそれでいい」

 けれど、惇也は真彩が自分の話を信じようが信じまいが関係無いと言う。

 それが何を意味するのか、真彩はすぐに直感した。
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