愛し愛され愛を知る。【完】
「形勢逆転だな」
「…………クソッ!」

 銃口を向けられて悔しそうな表情を浮かべながら理仁を睨みつける惇也。

「姉さん、怪我はないっスか!?」
「朔太郎……くん……」
「どこか痛みますか?」
「あ、ううん、大丈夫……だけど、これは一体……」
「ああ、これっスか? これは全て理仁さんの指示っスよ。理仁さんはワイヤレスイヤホンを付けていて、電話で兄貴と通話状態にしていたんで逐一互いの状況把握が出来てたんすスよ。俺らは外や他の階の組員たちを片付けた後で理仁さんからの合図を待っていて、合図と共に突入って算段だったって訳っス」
「そう、だったんだ……」

 何か考えがあるのだろうとは思っていた真彩だったけれど、そこまで計算されていた事には驚くばかり。朔太郎の話を聞いていた惇也もまた、目先の事ばかりに注意がいっていて周りの異変に気付けなかった事を心底後悔しているようだった。

「檜垣、この状況でお前の勝ち目はない。何か言いたい事はあるか?」
「そんなもの、ねぇよ。さっさと俺を殺ればいいだろ?」

 銃を突き付けられ、周りには鬼龍組の組員たちしかいない状況下で勝ち目の無い惇也は殺される事を覚悟した上で理仁に引き金を引くよう言い放つ。

 しかし、理仁には惇也を殺す気など無かった。
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