愛し愛され愛を知る。【完】
「私ね、幼い頃に両親が亡くなって、引き取り手も居なかったから施設で育ったの。施設を出たのは高校卒業と同時で、卒業後は社員寮のある会社に入社したの。あの人、悠真の父親と出逢ったのは、十九歳の頃だったかな――」

 真彩は幼い頃に両親を交通事故で亡くし、親族も居なかった事から引き取り手もなく施設で暮らしていた。

 奨学金制度を使って大学へ通う人も居るが、大抵高校卒業と同時に就職をして施設を出るというのが真彩の育った施設での暗黙の了解になっていて、真彩自身も早く社会人になりたかった事から就職をして施設を出た。

 そこから暫くは仕事に追われつつも充実した日々を送っていた真彩だったのだが、新たにやって来た上司から執拗なアプローチをされ始め、それを断り続けた彼女は入社一年が経った頃から社内で嫌がらせを受けるようになっていた。

「彼は、アマチュアのシンガーソングライターだったの。職場で嫌がらせをされて、だんだん全てが嫌になってて、寮にも居たくなくてよく街をふらついていた頃に、路上で歌ってるのを何となく眺めてたのが話すきっかけだった」

 出逢いは街中の一角で、シンガーソングライターだった彼の歌を聞いていた事が二人の始まりだった。
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