愛し愛され愛を知る。【完】
 彼の名は檜垣(ひがき) 惇也(あつや)。そこから度々話をするようになり、真彩が職場で嫌がらせを受けて苦しんでいる事を知ると、仕事を辞めて自分のアパートで暮らしながら新しい仕事を見つければいいと提案した。

「勿論、最初は断った。いくらなんでも、話すだけの関係の私が彼の部屋に転がり込む訳にはいかないから。でもね、嫌がらせがエスカレートして、命の危険を感じる出来事があって、それを知った彼が半ば強引に私を会社から引き離したの。間に入ってくれて、何とか辞める事も出来た。結局行く宛の無かった私は彼のアパートでお世話になる事になって、それがきっかけで私たちは付き合う事になったの」
「それだけ聞くと、その人、スゲー良い奴じゃないっスか?」
「そうね、ここまでの話だけなら彼は私の恩人だし、良い人だわ。でもね、これには続きがあるの」

 二人が付き合い同棲を始めてから数ヶ月後、惇也に転機が訪れた。路上で歌っていた時に大手事務所の関係者から声を掛けられ、スカウトされたのだ。

「応援してたし嬉しかったけど……デビューを控えた矢先、彼は事故に遭って重症を負った。それからよ、彼が変わってしまったのは……」

 惇也は交通事故が原因で喉と腕を壊し、日常生活には差程支障は無かったものの、思うように出なくなった声、ギターを弾く事が少々難しくなった腕ではミュージシャンとしてやっていく事は困難になってしまったのだ。
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