愛し愛され愛を知る。【完】
「悠真、楽しそうだな」
「はい。理仁さんがチケットをくださったおかげです。本当にありがとうございます」
「礼を言われるような事じゃねぇよ。このくらい言えばいつでも出してやる」
「いえ、こういう所はたまに来るから良いんです。今まで悠真には殆ど遠出なんてさせてあげられなかったから、こうして連れて来てもらえて助かります」
「まだ詳しく聞いた事がなかったが……お前と悠真はここへ来る前、どうしてたんだ? ずっと職も住まいも無かった訳じゃねぇんだろ?」
「……勿論です。きちんと仕事もしていましたし、住まいもありました。悠真が生まれる前から生まれて一年程は、貯金を切り崩しながら家賃の安い古いアパートに住んでいて、悠真が一歳になる前には働き始めようと職探しをしていました。そんな時見つけたのが隣の市の個人経営のラーメン屋さんで、事情を話したら悠真も一緒で問題無いと言われたので、そこで住み込みで働かせてもらっていたんです。優しい夫婦とその息子さんの三人が暮らしていて、私と悠真を快く迎えてくださったんです」

 理仁に問われ、真彩は理仁と出逢う前の暮らしについて話し始めた。

「飲食店は初めての経験だったので、初めは少し苦労したんですけど、来る方たちも常連の方が殆どだし、アットホームな雰囲気ですぐ馴染めました」

 働いていたというラーメン屋では真彩も悠真も家族のように扱われ、楽しく過ごせていたという。

「だけど、今から約一年程前、ご夫婦のもう一人の息子さんが帰ってきてから、全てが変わってしまいました」

 けれどそこの夫婦のもう一人の息子の存在が、真彩の運命を大きく変えてしまったようだ。
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