愛し愛され愛を知る。【完】
「仕事で色々あったみたいで、酷く心を閉ざしていました。それまでは自宅兼店舗だったので悠真は幼稚園や保育園にも通わせずに面倒を見ながら働いていたのですが、その息子さんの迷惑になるといけないので日中は保育園に通わせる事になりました。それなので、日中は自宅にその息子さんが一人だけ。私は店舗での仕事の他に自宅の家事も任されていたので、家事をこなしている間はその息子さんと二人になってしまうんです。暫く経ったある日、その息子さんから言い寄られました。初めは揶揄っているだけだと思ったんです。でも、その後も執拗く迫られました」

 真彩はその息子から言い寄られるようになり、その事を誰にも相談出来ないまま日が過ぎていったという。

「それから、理仁さんと出逢う二ヶ月程前、私がそのラーメン屋さんを追い出される原因になった出来事がありました」

 そして、理仁と出逢う二ヶ月程前に、真彩と悠真はある出来事が原因でラーメン屋を追い出される事になってしまったという。

「その日もいつものように言い寄られていたんですけど、それだけでは終わらなくて……腕を引かれて、床に押し倒されて、馬乗りになられて……服を、強引に脱がされました。必死に抵抗したんですけど、そのまま無理矢理――」

 思い出した真彩の身体は微かに震え、それでも話を続けようとしていた真彩に理仁は、

「――もういい。悪かった、嫌な事を思い出させて。もういいから」

 身体を引き寄せ、それ以上話さなくていいと中断させた。

 その後の事は話さなくても想像出来たらしい理仁。真彩もそれが分かったのだろう。それ以上その事について話す事は無かった。

 けれど真彩は気付いていなかった。理仁にはバツイチという話をしていたのに、悠真の父親の存在を一切出していなかった事に。

 しかし朔太郎から報告を受けていた理仁はそれに気付かないフリをして、ここで惇也の存在について尋ねる事はしなかった。
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