愛し愛され愛を知る。【完】
「翔は賢いし根が真面目だから、入社したての頃から会社の社長に好かれていたらしいんだが、それを良く思わなかった奴もいたみたいでな、いじめに遭ってたらしい。それでもその程度で音を上げる奴でも無いから気にせずにいたらしいが、ある日会社の金が盗まれる事件が起こったらしい」

 理仁の話を聞いた真彩は、その後の展開が読めたらしい。

「……それが、翔太郎くんのせいになってしまったんですか?」
「ああ、そうだ。嵌められたんだ。上司も一緒になってありもしない嘘をでっち上げて、翔がやったように偽装した。鞄の中に金が入っていたらしい。それを見た社長は周りの嘘を信じて、よく調べもせずに翔を即刻解雇した。警察沙汰にしないだけ有難いと思えなんて捨て台詞まで吐いてな」
「……酷い……」
「翔や朔も母子家庭で、当時は母親が再婚して実家には義理の父親も一緒に住んでいたんだが、その男がかなりの糞野郎でな、ろくに働きもせず酒浸りだったらしい。翔は一人暮らしをしてたんだが、住んでいたのは会社が借りていたアパートだったから早々に追い出されて実家に帰ったが、解雇された事を知った義父と殴り合いの喧嘩に発展して、全てが面倒になって家出した」

 家を出たものの翔太郎に宛はなく、ふらつきながら街を彷徨いている途中、些細な事で不良グループと口論になって殴り合いになり、複数人から暴行を受けた翔太郎はそのまま裏路地で行き倒れていたという。

「そこを偶然通りがかった俺が見つけて、拾ったんだ」
「そこからずっと、理仁さんの所に?」
「ああ。帰る場所がねぇって言ってたからな。ただ、アイツは何やらせても相手と喧嘩になってばかりで当初は本当に大変だった。組員ともすぐに喧嘩しやがってよ」
「今の翔太郎くんからは、全く想像出来ません」
「だろうな」
「そんなに荒んでいた翔太郎くんは、何をきっかけに変わったんですか?」
「そのきっかけが、朔なんだよ」

 理仁の言葉で今の翔太郎があるのは朔太郎のおかげという事は分かるものの、一体何があったのか分からない真彩はそのまま理仁の話に耳を傾けた。
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