愛し愛され愛を知る。【完】
「翔が家を出てから暫くして、当時高校生だった朔が翔を訪ねてやって来たんだ。朔には、俺のとこに居る事だけは伝えてようだが職場での事や義父への思いは話して無かったらしい」

 翔太郎を訪ねて来た朔太郎は、翔太郎のあまりの変わり様に心底驚いたという。朔太郎の前ではいつも、完璧な兄を演じていたから。

 そして朔太郎も義父には良い印象を持っていなくて、同じ家には住んでいたものの全く関わり合いにはならなかった。義父もまた、特に関わりさえしなければ手を出したりもしないので喧嘩になる事もなく、ただの同居人という認識で過ごしていたらしい。

 しかし、翔太郎が出て行った事を知った時は義父が原因だと思って喧嘩になり、そこから関係は悪化していったという。

「酷く荒みきった翔を見た朔は、その原因がこの鬼龍組に居るからだと思ったようでな、俺に面と向かって言ったんだ『兄貴を解放してくれ』って。勿論、俺が強制して翔が留まっていた訳じゃなかったから、それならとっとと連れて帰れと言ったんだが、翔はそれを拒否した」

 そして、それまで朔太郎の前では弱音すら吐いた事がなかった翔太郎は、初めて自分の胸の内を曝け出した。

 職場で起きた事、義父の事、これまで家族の――母と朔太郎の為に生きてきたが、これからは自分の為だけに生きていきたい事、我慢していた事を全て。

「翔は朔の事も母親の事も好きで、それまでは家族の為に働き、喜ぶ顔が見たくて色々として来たが、『もうこれからは自分の為に生きたい、義父と別れない母親にもいい加減嫌気が差したから実家とも縁を切りたい、金も無いから苦労かけるかもしれないが、朔太郎も同じ気持ちなら俺と暮らして欲しい』そう話してな、それを聞いた朔は言ったんだ。『それなら、俺はこの鬼龍組で兄貴を支える』って」

 母親の事は見限っても、大好きで大切な弟の朔太郎は放っておけず、もう一度心を入れ替えてやり直すから自分と暮らして欲しいと翔太郎が朔太郎に頼むと、朔太郎は鬼龍組に入って翔太郎を支えたいと言った。
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