愛し愛され愛を知る。【完】
「どうした?」
「市の職員が見えてます」
「ああ、もうそんな時間か……すぐ行くから応接室に通しておいてくれ」
「了解しました!」
「悪いね、今日はこの辺で終わりにするよ。何かあればいつでも連絡してくれて構わないからね」
「あ、はい。わざわざありがとうございました。あの、これからも悠真の事をよろしくお願いします」
「ああ、勿論」
「それでは、失礼します」

 先程何を言いかけたのか気になった真彩だけど、壱哉は予定があるようなのでそれを聞く事はせずに園長室を後にする。そして再び悠真の元へ戻った真彩は終わりまで園で過ごした後、朔太郎や悠真と共に幼稚園を出た。

「さく、こうえんいきたい!」
「仕方ねぇな、少しだけだぞ」
「うん!」

 帰り際、幼稚園近くにある少し大きめの児童公園に立ち寄りたいという悠真の要求を飲んだ朔太郎と真彩はベンチに座って子供たちが遊んでいる様子を眺めていた。

「どうでしたか、園での悠真は」
「家とは違って、楽しそうだったわ。やっぱり同年代の子と過ごす時間も大切よね」
「まぁ家には大人しか居ないっスからね」
「お友達とも仲良く遊べてるみたいだし、安心した」
「それなら良かったっス」
「朔太郎くんも、だいぶ様になってたよ」
「そうっスか? まぁ、俺もそれなりに楽しんでますけどね。子供も可愛いし、やり甲斐あります」
「きっと朔太郎くんに合ってるんだよ。保育士」
「ですかね」

 他愛のない話をしながら暫く過ごしていると、途中で朔太郎のスマホの着信音が鳴った。

「――っと、すみません、ちょっとそっちで電話してきます」
「うん、分かった」

 朔太郎は立ち上がると少しだけ距離を取りつつ、真彩と悠真が見える位置で立ち止まって電話を掛けた。

「ママーきてー!」
「はーい」

 一人ベンチに座って手持ち無沙汰だった真彩は悠真に呼ばれて砂場へ近付いていると、

「あっ!」
「大丈夫?」

 砂場から遊具へ向かっていた女の子が転んだのを見掛けてすぐさま駆け寄った。
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