王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
「ちょっとね、家の事情で帰国の予定が早まったんだ。それより、今日は君を連れ出す役目をもらっていてね。久しぶりに下町に行くのはどう?」
「…………は?」
「だから、下町に行こうよ。もちろん、お忍びで。たまには監視なしで家族に会いたいでしょ? こっそり下町の皆に会うのもいいし、ただ目的もなくお店巡りするのも楽しいと思うよ」

 彼は一体、何を言っているのだろう。
 聖女は顔が割れている。神殿にこもっているはずの聖女が、普通の女の子のように出歩けるわけがないのに。
 それに王宮に入ってからは、聖女には常に護衛がつけられていると聞いている。護衛の役目は聖女の身の安全および監視だ。護衛の目は、クレアが聖女の仕事から逃げ出さないためにある。

(確かにリアンの話はとても魅力的だわ。でも、そんな軽率な行動できるわけが……)

 同意を求めるように神殿長を見やると、彼は得心がいったように深く頷いた。

「本日、聖女様は一日ずっと神殿で静養されています。緊急の案件が出ても、私がすべて処理いたします。聖女様の集中の妨げになる者がこの部屋を訪れることはありません」
「え、ええ。そうですよね」

< 10 / 96 >

この作品をシェア

pagetop