王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
 しかし、次の言葉はクレアが予想した言葉のどれとも違うものだった。

「ですから……たとえば、下町で聖女様とよく似た顔の方が現れても、その方は聖女様ではないのです。よく似た別人というのは案外、身近にいらっしゃるのかもしれませんね」
「…………」
「聖女様はこれまでたくさん頑張っていらっしゃいました。ですが、聖女が息抜きをしてはいけない、という決まり事もございません」

 予想外の言葉に顔を上げれば、孫を慈しむような眼差しと目が合った。神殿長は優しくクレアを見つめ、静かに傍聴していた少年に視線を移した。
 アイコンタクトで示し合わせたように、リアンが言葉を引き継ぐ。

「聖女の役目は今は考えなくていい。この部屋を出たときから、君はただの女の子だ。大丈夫、少し変装すれば絶対にバレない。俺はそのために来たんだから」
「……え……?」
「だって、クレアは無理して笑っているよね? 遠目から見ててもわかるよ。あんな風に無理を続けていたら君の心が保たなくなる。もっと自分を大事にしてほしい」
「大事に……」

 リアンの言葉を心の中で繰り返す。そして愕然とした。
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