王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
(……神殿を出たら、ただのクレアに戻れる。ひとまず、聖女の役目はいったん忘れよう。だって、ここにはわたしを心配してくれる人たちがたくさんいるのだから)

 彼らが休めと言うのなら、きっと休んだほうがいいのだ。いざというときに彼らを守るためにも。だから、今日だけは普通の女の子に戻ってもいいのだ。
 そう結論づけて、クレアは神殿長に頭を下げた。

「神殿長にはご迷惑をおかけしますが、戻るまでの間、よろしくお願いします」
「ふふ。子供に頼られるのが年長者の務め。どうぞお気になさらず、楽しんでいらっしゃい」
「はい……いってきます!」

 慣れた動きでリアンがクローゼットの横にあった壁のくぼみを押す。すると、壁の一部が奥に沈み、地下通路が出てきた。おそらく緊急避難用の秘密の道なのだろう。
 リアンに手を引かれるまま、一本道の隠し通路を抜けて地上に出る。周囲を見渡すと、神殿の裏手にある雑木林の中だということがわかった。
 鳥の鳴き声に空を見上げれば、青い絵の具にたくさんの白色を混ぜたような、水色のキャンパスが広がっていた。遠くにはモコモコの綿雲がいくつか浮かんでいる。

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