王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
 この空の下に、クレアが守るべき人たちがいる。だが今のクレアは聖女に選ばれる前の、ただのクレアだ。胸に満ちるのは大きな開放感だった。

 ◆◆◆

 いくら神殿長自らアリバイ作りに協力してくれると言っても、クレアは名の知れた聖女だ。神殿に出入りしているところだって何度も目撃されている。
 その聖女が仕事以外で、ふらりと王都に現れれば、国民は皆驚くだろう。
 クレアの心配を見越してか、雑木林の開けた場所でリアンはあるものを貸してくれた。「こうやるんだよ」と見よう見まねで教えられた通りにすると、見る見るうちにクレアの髪色はくすんだ栗色に変わった。

 なんでも、髪色を本来の色とは違う色に染める特別な粉、なのだそうだ。

 悪用を防ぐために市場には一切出回らない特注品らしい。なんでそんな高価な物を?と思ったクレアの戸惑いの視線にリアンはただ微笑むだけだった。下手につつくと何が出てくるかわからないので、深く詮索するのは早々に諦めた。
 髪の色は普通に井戸水や雨水で流したら元通りになるようだが、手鏡で見た自分の姿はよく似た顔の別人にしか見えなかった。
< 14 / 96 >

この作品をシェア

pagetop