王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
「え、なにそれ。美味しそう!」
「今の時間ならすいてるはずだから、並ばなくても買えるかもね」
「好きにお店を見て回れるなんて久しぶり! 楽しみだわ」

 肩の力を抜いた会話なんて、いつぶりだろう。まるで昔に戻ったみたいだ。
 ドキドキと緊張しながら裏門についたが、夜勤明けなのか眠そうな門番が一人いるだけだった。いつもなら「聖女様、お帰りなさいませ!」「聖女様、万歳!」といった風に歓迎ムード全開で出迎えられるが、今日は素通りで下町に入れてしまった。
 リアンが考えた変装はばっちりだったようで、怪しまれることもなく「見咎められるかも」と不安になっていたクレアは拍子抜けした。
 そのまま道を進むと、所狭しと店が並ぶ下町の大通りに出た。貴族街みたいに道は舗装されていないし、老朽化した家を何度も修繕しながら住んでいるのでお世辞にもきれいとは言いがたいが、クレアにとっては見慣れた風景だ。
 馬車はなく徒歩の人があふれ、貧しいながらもポジティブにたくましく生きていく場所が下町である。そして、半年前までは自分の居場所はここだった。
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